昨年(2020年)9月に就任した中野聡学長が、就任後初めて本紙の取材に応じた。中野学長は取材の中で、今後の大学運営についての方針を明らかにした。
(2020年11月13日取材)
―これからの本学の将来像は。
本学は、適切な規模と恵まれた環境の中で学生・教職員・卒業生・地域が結びついた「卓越したコミュニティ」として歩んできました。これを守り育てていくのが第一だと考えています。一方で、より良い未来に向けた変化も大学には求められています。そのためには、コミュニティの多様な構成員をまとめていく努力が必要です。
本学は、人文社会科学系大学としては初めて指定国立大学法人の指定を受け、国民の負託や社会からの期待に応える大きな責任があります。とりわけ本学は、社会が抱える課題の解決に向けた駆動力になることが期待されています。たとえば「科学」の成果をどのように社会実装するかという問題や、格差社会や環境問題等は、人文社会科学が果たすべき役割が大きく、また、さまざまな科学の協働による解決が必要です。このような課題に取り組むためにも、学生には文系の枠に閉じこもらないでほしいと思います。
本学には学生・教員とも数理に強い方が多く、文理融合に向いていると思います。そうした文理の枠を超えた協働を果たすうえで本学が取り組まなくてはいけないのが、「データサイエンス」だと思います。
―指定国立大学法人指定にあたってそのデータサイエンス系の学部・研究科の新設が予定されていることが公表されましたが、具体的な内容は。
具体的な内容については現在検討中であり、学内での自由な議論を担保するため、現段階では具体的なコメントはできないのですが、名称を「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科(仮称)」として申請したいと考えています。
―現在進行しているいわゆる「大学改革」をどう進めるか。
大学が供給側の視点のみに立ってしまわないことが大事です。ステークホルダーとしての学生の声や、本学経営に対する学外理事・経営協議会学外委員・監事の皆さんの声等をよく聞きながら、改革を進めていきたいです。
―「受け手」である学生との合意形成はどのように行っていくか。
かつて一橋の理念とされてきた「三者構成自治(※)」は、法律の改正等の外部環境の変化もあり、実行することが難しくなりました。その一方、新しいプラクティスを模索することが必要とされています。前体制では教育担当と兼任だった学生担当副学長を稲葉哲郎先生(社会学研究科教授)の専任にし、新しい仕組みを検討しています。
―「三者構成自治」がうたう「三者」の一角である教員との合意形成はどうつくりあげるか。
従来からの教職員の過半数代表からの意見聴取や、教職員組合との交渉等継続的なコミュニケーションを引き続き行っていきます。
―日本学術会議問題や新型コロナウイルス感染症拡大等、大学をめぐる状況の変化にどう対処していくか。
新型コロナウイルス感染症拡大に関しては、対面授業再開について様々な意見が学生にあると考えています。今までのところ、大学の対面授業から感染が拡大した事例はなく、感染拡大防止のために一人一人がきちんと対策をすれば、キャンパス内での感染拡大は抑えられるのではないかと思います。現時点の方針では、すでに予告しているように感染状況が落ち着いていれば、対面授業を増やしてキャンパスに人を戻していきたいと考えています(取材後、2021年1月に緊急事態宣言が発出されて以後の授業は、原則的に全面オンラインに移行しています)。そのために、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の活用が重要であると考えます。「特定の場所で特定の人」との接触が発見できるCOCOAは、濃厚接触者を特定して、感染者が出た後も活動を続けるのにも役立ちます。対面での活動に向けて、学生にはぜひ導入してほしいですね(取材後、COCOAへの陽性者の登録が進んでいない現状が報道されていますが、速やかな改善を望みます)。
―コロナ禍で多くの学生の家計や研究に支障が出ている。どのように支援していくのか。
※※学生金庫の一時金貸付制度…最大3万円まで、学部生は2ヶ月間、院生は6ヶ月の期限で貸与する制度。現在新型コロナウイルス感染症の影響による家計急変に配慮し、限度額を15万円まで拡大している。