学長候補者インタビュー

今回の学長選考にあたり、本紙は3候補にインタビューを申し込み、それぞれの主張をまとめた。3候補とも、学外機関との連携や財務基盤の強化、指定国立大学構想といった現執行部の方針を承継・評価する点は同様だが、各候補で主張の重点とする部分は大きく異なる。

(編注:候補者へのインタビューはいずれも学長選考前に行ったものです)

大月康弘氏
――教育・学問のビジョンについて
本学が東京高等商業学校から東京商科大へと移り変わる際に掲げられた「ウニウェルシタース・リテラールム」は、世界中の人間・社会の情報を、一つに蓄積し、分析・研究する組織として大学を捉えるという考え方だ。このコンセプトを活かしたい。具体的には、さまざまな地域のデータ、言語や思考の原理に加え、ITなどの先端科学技術をも含んださまざまな分野の知見を集約・分析し、提言につなげる大学の姿を作り上げたい。そのために関係する諸大学や機関との協働が必要だ。
また、学内の各ユニットが学部横断的にアクチュアルなテーマに取り組む「現代研究」を推進したい。そのために、教員や学生といった構成員が主体的になる必要がある。具体的には、経済学部長時代に推進したHIAS(社会科学高等研究院)をその先駆けにしたい。

――ソーシャルデータ・サイエンス学部・研究科(SSDS)について
データを収集・分析できる人材を育成する機関として有意義だ。設立に関しては、本学が持つ近代統計情報などの貴重なデータを活かすツールが不可欠だ。また、世界中の研究機関と相互にアクセスできるようなハブとしての役割も持たせたい。

――経営面のビジョンについて
本学に対する国からの交付金は年々減少傾向にあり、財源確保や拡充が重要な課題だ。そのため学内の構成員の創意工夫による学外資金の獲得が欠かせない。先述した現代研究によって、外部からの資金獲得を含めた社会連携を目指す。学長はこうした資金の獲得や本学のプレゼンスの向上のために、広報を積極的に行うべきだ。

――学内の合意形成をどのように構築するか
さまざまな状況を鑑みて全体を調整するのが現在の学長の仕事だと考える。現在の統治システムに大きな問題はないと考えるが、各部局の意見を集約し、学内の創意工夫を学長が吸い上げるシステムが必要だ。そうしたなかで、学生の声を拾うためのチャネルも求められるだろう。

中野聡氏
――教育・学問のビジョンについて
一橋大学研究教育憲章の「日本及び世界の自由で平和な政治経済社会の構築に資する知的、文化的資産を創造し、その指導的担い手を育成することを使命とする」という理念を基本ビジョンとしたい。本学は、学部・研究科ごとの垣根の低さと大きすぎない規模が強みであり、これを活かすべきだ。

――SSDSについて
単に理系だけを外付けしたり狭い意味での「即戦力」の育成をめざしたりするのではなく、経済学研究科や経済研究所・経営管理研究科が強みとする数理、統計学やデータ・デザイン経営研究、法学研究科で取り組まれているAIと法規範をめぐる研究、社会学研究科・言語社会研究科が強みとする人間行動データ構築のプロセスを根本から検討する人文社会科学研究の知見ともコラボレーションして本学の強みを生かした学部・研究科をめざすべきだろう。

――経営面のビジョンについて
グローバル化にともない世界中の大学間競争が激化しており、経営資源の拡充が課題となっている。如水会をはじめとする卒業生からの支援に加え、従来とはレベルの異なる社会連携や産官学連携が必要だ。その際はガバナンス面での本学の自立性の確保も欠かせない。指定国立大学(※)については、社会科学の総合大学である本学が指定されたことに意味があると考えており、構想をどのように推進するかが問われている。

――学内の合意形成をどのように構築するか
各機関・教員との対話やボトムアップでの取り組みを活性化させ、意思決定の過程において、丁寧な説明を積み重ねていくべきだ。
19年に指定国立大学への指定が発表されたときにはその内容に「唐突だ」という印象を抱く教員が少なくなかった。構想自体は高く評価できる内容であり、追加指定のための努力、財源や人員などの「選択と集中」の必要性については理解しているが、トップダウン型の改革や情報共有の不足は現場の士気の低下をもたらす。学費値上げなど学生に影響を与える改革についても、当事者に対して説明責任を果たしていくことが重要だ。
また、法人化や学校教育法の改正などによって、1990年代まで本学の伝統とされてきた三者構成自治(※※)の慣行を実施することが難しくなっている。そのことを踏まえたうえで、これまで自治が果たしてきた歴史的な役割を鑑みて、新たな形を模索していく必要がある。

沼上幹氏
※沼上氏からは本紙からのインタビューの申し込みに対し、「回答を差し控え、質問事項については公開質疑ですべて回答する」という旨の返答があったため、公開質疑の内容などを集約したうえで掲載しています。

――教育・学問のビジョンについて
日本の大学は研究や教育といった分野の世界的な競争やグローバル化の波に出遅れてしまった。この遅れを取り戻すことが指定国立大学構想の根幹であり、これに取り組むべきだ。
研究については、大学ランキングに掲載される要件となる年間200本程度まで英語論文の数を伸ばしたい。
教育に関しては、特に学士課程において、単位の実質化をはじめ、学問への憧れの喚起や英語コミュニケーションスキル教育、理系分野の強化などが不可欠で、そのための経営資源投入が必要だ。

――SSDSについて
既存の社会科学と理系的領域とのインタフェースとしてSSDSを設置することによって、本学の価値を高める必要がある。

――経営面のビジョンについて
重点分野への資源投入と財務基盤の充実が欠かせない。支出管理については、システムが完成していないことが問題であり、若手職員と外部の専門家との協働でこれを構築すべきだ。収入については、中国をはじめとする海外の企業に授業料免除の資金を募るなど、外部収入の拡大を目指すことで対処する。
加えて、指定国立大学構想を現実化していくために、大学経営に携われるような人材の育成も次期学長に求められる役目だと考えている。

――学内の合意形成をどのように構築するか
副学長(教育・学生担当)時代、寮費値上げについてはRA・CA向けに説明会を開き、授業料値上げについては新入生向けに文書で説明した。これらの方策については、教育サービスの向上につながり、学生に資するものだと考えている。

※……17年4月の国立大学法人法の改正により創設。世界最高水準の教育研究活動が見込まれる大学を指定国立大学法人として認定し、世界の有力大学に比肩するものとすることを目指した制度。本学は17年6月に申請を行った際に「さらなる充実・高度化」の要請を受けたのち、再度の申請を経て19年9月に認定。
※※……学生・職員・教員の三者で学内自治を行うという本学独特の文化。


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