指定国立大学を考える

 9月5日、本学は指定国立大学に認定され、ソーシャルデータサイエンス学部の新設や2021年度学部入学者からの授業料値上げなど、多くの学生に影響を与える事項が決定された。指定国立大学が何か、そして学内でどのように承認されたかを取材した。


 指定国立大学は、もともと2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2015などにある「特定研究大学」を源流とする。そこでは、海外の大学を念頭においた評価や情報公開などマネジメントの厳格化、自由度の高い収益事業など自己利益の拡大による財務基盤の強化、ガバナンスの強化などが盛り込まれている。同構想はこれらの施策により、学内の体制整備や経営基盤の強化といった大学内の環境改善を行い、大学を「国際的なイノベーションの創出」を担う人材や知識を育成する教育研究拠点とするものだった。

 16年1月13日には有識者会議での議論がまとめられ、特定研究大学改め指定国立大学を、世界の有力大学と肩を並べる国際競争力を持つ研究拠点とする方針が示されている。文科省は、①人材獲得・育成②研究力強化③国際協働④社会との連携⑤ガバナンスの強化⑥財務基盤の強化の6点を備えるべき要素としたうえで、研究力・国際協働・社会との連携の3点において卓越した大学を指定国立大学として認定するとの要件を示している。

いかに「決定」されたか? ――指定国大をめぐる学内議論

 この議論のまとめが文科省のウェブサイト上で公表された16年1月13日の各研究科の教授会で、初めて指定国立大学についての話題が取り上げられた。具体的には①国際的な業績の向上②人材育成力の強化③財政基盤の強化を中心として指定国立大学の認定を目指す旨が、審議対象にならない「報告事項」として教授会に連絡された。

 同年9月ごろには、指定国立大学認定に向けたプロジェクトチームが設立された。設立当初の公開資料からはチームの存在を確認することはできず、このチームに誰が参加していたかは現在も一般に公開されていない。

 同年11月に、文科省によって指定国立大学の公募が始まると、12月に催された役員会などで、その旨が報告されている。

 その後、役員会での意見交換を経て、申請締め切りが迫った17年3月1日の教育研究評議会において、指定国立大学の申請が承認されている。この時点の指定国大の構想には、実際に2016年度から進められていた産業技術総合研究所との共同研究といったような社会連携については盛り込まれていたものの、授業料の増額や新学部の創設には一切触れられていなかった。

 5月末から6月初めにかけてのヒアリング審査・現地視察による審査の結果、この構想では指定国大の認定に至らず、文科省の指定国立大学法人部会から、さらなる構想の充実・高度化を求められることとなった。

 11月から12月には、あらためて各研究科の教授会などにおいて執行部側より、指定国立大学の認定に向けた取り組みが報告された。ここでは、文科省から受けた指摘に対する返答の骨子についての意見交換が行われた。その中では、部局横断型の組織の建設などが議論された。
 
 それから1年以上経った19年1月ごろ、再度指定国立大学の認定に向けたプランが執行部によって作成された。このときにも、各研究科の教授会において報告が行われている。この時点で、初めて明確に授業料の値上げによる経営基盤の強化を前提として指定国立大学の認定の議論が進められ、①経済学②経営学③会計学・ファイナンス④政治学・国際関係学⑤心理学⑥データサイエンスといった重点化領域が盛り込まれた。なお、この報告以後、指定国立大学に関する教授会資料の持ち帰りは許されなくなった。
 
 これにさらに修正を加えた案が教育研究評議会などで承認されたのち、再度文科省へと申請が行われ、9月5日の認定に至った。この過程の中で、ソーシャルデータサイエンス学部の新設が決定されたとみられる。

 認定後初めて行われた10月の各研究科の教授会では、指定国立大学の認定の報告とともに、ソーシャルデータサイエンス学部は2023年度を目途に設立を目指すことが報告された。

 本学教員は本紙の取材に対し、指定国立大学をめぐる大学としての意思決定過程について、「現行制度の下で可能な限り構成員の意思を反映させる努力がなされたとは、残念ながらいえない」と述べた。