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退任教員インタビュー 経営管理研究科・河野真太郎准教授

 昨年度末で本学を退任した河野真太郎准教授(現、専修大教授)は、英文学やイギリス社会について取り扱う一方で、現代文化・社会についても、さまざまな媒体で発言を行ってきた。

こうの・しんたろう
専修大学法学部教授。98年本学法学部卒、05年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。京都ノートルダム女子大学人間文化学部専任講師を経て、昨年度まで本学で勤務し、今年度より現職。専門は20世紀イギリスの文化と社会。

 

 

 

───研究領域は。
 イギリス文学と社会です。イギリスの作家、ヴァージニア・ウルフについての研究から出発し、そこから同じくイギリス生まれの作家であるレイモンド・ウィリアムズについて研究しました。作品を読み解く上で、彼の生地・ウェールズについて知ることが必要だと考え、現在はウェールズの文化・社会について研究しています。
 その一方で、過去と「今を生きる我々」との接点を探ることも重要だと考えています。そうした観点から、いわゆるポピュラーカルチャーをはじめとする、20世紀後半以降の新自由主義時代の文化や社会についても興味を持っています。文化と社会の研究の一環として、ジェンダーも研究のフィールドとしてきました。

 

───本学在籍時代の経験について。本学退任時になされた在籍当時の経験についてのツイート(写真)も話題になりました。
 京都ノートルダム女子大に勤務した後、一橋には商学研究科所属という形で、語学科目や教養ゼミなど教養科目を受け持つ教員として着任しました。もともと一橋の法学部に入学し、そこで文学に興味を持ったということもあり、はじめは意気揚々でした。ですが、一橋大学に勤務している間は正直消耗する部分が多かったように思います。これには、1990年代から始まった、大学設置基準大綱化や大学の法人化、文科省からの運営交付金の減少といった、大学の自主性を高めようとする新自由主義化のトレンドがあります。一橋をはじめとする大学は社会のニーズへの対応に傾斜してきました。
 こうしたトレンドの中、私のような教養教育を担当する教員は、学内での他学部からの自立性を失っていきました。こうした背景のもと、私は着任直後から大学から常に「ポストを空けてほしい」という圧力を受け続けてきました。転任時のツイートは、こうした環境で10年近く勤務してきた思いを率直につづったものです。
 とはいえ、特に研究面において本学の環境は多くの実りをもたらしてくれたと思います。他大と比べると「大学の同僚と共同で研究できた」というのはすごいことだと思っています。こと言社研の先生方とはプロジェクトレベルで共同研究を行ったり、こと故三浦玲一先生とは一緒に「新自由主義研究会」を立ち上げたりしました。また、院ゼミでは「私が好きな本を好きに読む」というスタイルで、言社研などの院生と一緒に、多くの文献を講読しました。今も交流が続いている学生もいます。

話題になったツイート

 

───一般向けの講義や言論活動について。具体的にはどのような活動を行ってきましたか。
 2015年に社会学研究科の大河内泰樹先生らとともに国立人文研究所を立ち上げ、一般向けの人文学の学校「Kunilabo」を開催してきました。この活動も、大学の新自由主義化、いわゆる「文系学部取りつぶし」の方針に対するカウンターとして、大学の外に人文学を開いていこう、という思いのなかでスタートさせたものです。今後もこのように社会にリーチ・アウトする活動は続けていけたらと思っています。

 

───一橋生にひとこと。
 一橋大学には、専門科目以外にも、多くの教養科目が開講されています。最初から専門科目ばかりに閉じていくのではなく、広く社会や他者に対して興味を持ってくれたらと思います。また、今の大学が歴史のなかでどのような位置にあるか、自覚的になってほしいと思います。