石氏は1977年本学大学院経済学研究科博士課程を修了し、同経済学部教授、附属図書館館長を経て、98年から2004年まで学長を務めた。著書には『租税政策の効果―数量的接近』(東洋経済新報社)、『財政改革の論理』(日本経済新聞社)など。
石ゼミ出身で、現在本学で教鞭をとる3人の教員に話を聞いた。
蓼沼宏一学長
「石先生は、どの学生に対しても厳しいが、公平な方でした」。練習量の多い体育会に入っていようがいまいが関係なく、ゼミ生はみな膨大な量の文献を読んでいた。フィールドホッケー部に所属していた蓼沼教授も例外ではなく、部の合宿にも専門書を持ちこんで勉強していたという。「質と量を兼ね備えた勉強をしたことは、学者としての基礎を築いてくれた」
蓼沼教授が学長になってからも年2回ほど自宅を訪ね、学長の苦労話をすることもあったという。「具体的なアドバイスをいただくこともあれば、力強く励ましてくれることもありました」と振り返る。
2004年に石氏の学長在任中に本学が法人化され、十数年がたった。「経営、財政が変わったとしても教育や研究のミッションは変わりません」と蓼沼学長は語る。「少人数のゼミナールに代表される、学生を大事に育てる学風は、石先生が大切にしてきたものであり、今もそれを受け継いでいます」
佐藤主光教授
厳しさだけでなく、自由さも石ゼミの特徴だった。「石先生は、学生に勉強の場を提供するだけ。学生の議論の間は基本的に寝ていて、最後にコメントをくれました」。そう振り返る。卒論は「経済学に関わることならなんでも良い」。理論を極める人もいれば、実証分析をする人もいる。その方針は佐藤ゼミにも受け継がれている。
石氏からのポストの紹介などもあり、研究分野や税制調査会での仕事などで、2人の活動領域の重なる部分は大きい。しかし、現実の政策を語ることはあっても、決して学問に関することは話さなかった。「石先生から学んだのは、学問というより人としての基本的なことでした」。特に時間を守ること、締め切りを守ることについては厳しかった。石ゼミの同期会を開くと、集合時間の30分前には全員集まっているという。「石先生を前にすると、ゼミ時代の習慣が戻ってしまうんです」
立場によって態度を変えることがないのも石氏の魅力だ。学長になろうが政府の税制調査会の委員長になろうが、決して偉ぶったり人にこびたりすることはなかったという。「税調の会議でもゼミの時のように寝ていることがありました」と笑った。
竹内幹准教授
「机上の空論」すぎる経済学に違和感があった竹内准教授は、経済学の応用の第一線だった財政学のゼミである石ゼミを選んだ。
入ゼミ直後、石氏はゼミ生を連れて大学図書館の書庫を案内した。普段入ることのできない書庫には、過去の卒業論文が収められている。先輩たちの知の集積を目の当たりにし、それに恥じない勉強をしなければならないと痛感したという。「多くは語らないけれど、学生たちに様々なことを感じ取らせる方でした」
大学院に進学するかどうか悩んだ際には、かつて石氏自身が同様の迷いを抱えており、専門書を持って単身山に1週間こもり、研究者になると決断したことを教えてくれたという。その後も親交は続き、研究者としてのキャリアに悩んだときに電話で相談することもあった。
お別れ会の後、書庫を訪ねた。「石先生や同期生への感謝が記されている卒論を見て懐かしくなった。あの時から20年たったと思うと感慨深いですね」
蓼沼 宏一(たでぬま・こういち)
第17代一橋大学長・経済学研究科教授。専門は厚生経済学、社会的選択理論。
佐藤 主光(さとう・もとひろ)
本学経済学研究科教授。専門は公共経済学、財政学。
竹内 幹(たけうち・かん)
本学経済学研究科准教授。専門は実験経済学、行動経済学。