【Hit→You2017/はたらく】芝居と(いう)仕事

大里さん芝居

撮影:ALTOPIA 細澤恭悟

 

本当に好きなこと、やりたいことに最初から出会える人はどれだけいるのだろうか。

多くの一橋生が大学卒業後「会社員」、すなわちどこかの企業や組織に属し、給料をもらって、もしくは渡す立場になって、定年まで働き続けるイメージを持っているだろう。そこには、やりがいやその仕事を好きだというきもちだけではなく、高収入や安定がその職に私たちをつなぎとめている部分があるのではないか。
もし、ある仕事をしているときに自分が本当にやりたいことと出会ってしまったら、私たちはどちらを選ぶのだろうか。
大学卒業後、就職、転職を経て演劇を始め、現在は契約社員とアルバイト兼ねながら、女優としても活躍する大里冬子さんに話を聞いた。


――なぜ、演劇の世界に入ったのですか。

大学を出たあと東京で就職して、3年後くらいに転職したんです。ちょうどその頃、所属していた阿波踊りチームにいた高校生がCDデビューして、自分も何かできるかも、と触発されて、芝居のエキストラに応募して出演してみたんですよ。そうしたら、とても楽しくて。最初はバイト感覚だったんですけど、知人の紹介で1度舞台に出て、また声をかけてもらって出演して、っていうのを続けていってここまで来ちゃいまいた。

 

――大学生の時から演劇に興味があったのですか。

全然そういうわけではないです。見たこともありませんでした。大学時代は遊んでばっかりで、将来のこととか特に何も考えていなくて。
ただ、今から思えば、最初に広告代理店に就職したのもメディアや芸能界へのあこがれがあったからなのかもしれないです。学生時代に友人とコントをやったり、阿波踊りのパフォーマンスをしたり、誰かと一緒に何かをしてそれを周りの人に見てもらうっていうのは好きでしたね。

 

――転職には何かきっかけがあったんですか。

たまたま金融系のコンサル会社の人から声をかけてもらったからですね。最初の仕事はやりがいがないわけじゃないけど、あるわけでもない、という感じで。これを機にすっぱり次に移ろう、と思って、採用決まる前に辞表出しちゃいました。で、転職後に演劇を始めました。

 

――演劇始めて以降はどんな生活を送っているんですか。

何度も出演していくなかで続けていきたいと思ったんだけど、稽古や本番の度に有給取るのも限界があったので、会社を辞めようとしました。でも、さすがにお金に困るなー、ということで契約社員として続けさせてもらうことになりました。会社としても、新たに正社員を雇って教育するより、契約社員でも継続した方がコスト的にありがたかったかもしれないですよね。その時あたりから夜だけ居酒屋でバイトしたり他の短期のバイトをしたりしています。3年ほど小劇団に所属して芝居に出ていたんですけど、約1年前にフリーになりました。今は、声をかけてもらったり自分でオーディションに応募したりして、これも小劇団ですけど年8本くらい出演しました。

 

――やっぱり今は演劇が自分の中で一番ですか。

そうですね。芝居を終えた後に、観客から直接感想を言ってもらうときに「好きだ」って強く思います。会社での仕事ももちろん達成感はあるし事務作業は嫌いではないけれけど、直接自分に何かあるわけではありませんから。自分に演技のセンスがあるかどうかはわからないし、向いているとも思わないけど、やっていて楽しいし、好きだ、って言えます。

 

――今後は芝居一本に絞っていこうと思っているんですか。

そう思っていなければ、正社員やめないですし、戻るつもりもないです。
「芝居が楽しい」という感情だけでやっていける時期はもう過ぎてしまったんですよね。もう、新人でもないですし、本当に芝居で食べていくなら、そろそろ身の振り方を決めなくちゃなー、って思ってます。

 

――でも、まだ契約社員は続けているわけですよね。

結局、良い服着て良いもの食べる生活を一度知ってしまったら、生活水準を落とすのが怖くなってしまって、契約社員の立場にしがみついています。実際、芝居で稼げない以上「趣味」と言われてしまえばどうしようもないですから。もちろん、チケット代をもらって人に見ていただいているからプロ意識はありますが。

 

――実際に演劇の道に進むために何か行動しはじめているんですか。

劇団をやめてフリーになったのも、一つのステップです。もちろん、劇団にはずっといてお世話になったし、出演作も安定してありましたけど、芝居で食べていくならここにとどまっていては駄目だ、と。自分にとっての選択肢を広げると同時に狭めて自分を追い込んだって感じですね。フリーになって、どういう劇団に入って、どういう役者になるのか、自由に自分を売り込めるようになった。一方で、安定的に出演できる作品はなくなるわけで、たとえ他の劇団で出演してもギャラはわずか、稽古や出演期間は仕事やバイトができませんから給料は出ません。今年になってがくんと収入が減りました。

 

――現在は、契約社員は続けつつも、芝居だ芝居1けで生計を立てることを目指しているわけですね。その状態に迷いや後悔はありますか。

OL時代は仕事のために仕事をしている、と感じることがあって、でも今は、好きなことをして、それをするためや生活をするために、仕事やバイトでお金を稼いでいるという感覚があります。
ふつうにOL続けていればよかったかなとか、逆に若いうちに演劇を初めていたらまた違ったのかな、とか後悔することはあります。でも、何をしていても後悔していると思うので。先輩俳優さんからも「社会人を経験したからこそできる演技があるはず」と言っていただきました。その経験を活かせるようになりたいですね。
一番強く思うのは、若いうちに色々な経験をして、色々と考えておけばよかったな、ということ。そして、意外と大人になってからでもできることがたくさんある、ということですね。