本紙インタビューに応じてくれた渡辺秀和さん

 夏を越し、2026年卒業予定の人たちは、これから本格的な就職活動シーズンを迎える。就活に、漠然とした不安や焦りを持つ1、2年生もいるだろう。今回は、キャリア形成のために学生時代にすべきことを尋ねるべく、本学のOBで、株式会社コンコードエグゼクティブグループ(以下、コンコード)の代表・渡辺秀和さん(平3商)にお話を伺った。同氏は、戦略コンサルやPEファンド、外資系企業、ベンチャー企業の経営幹部、起業家などへ、1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきている。

本紙インタビューに応じてくれた渡辺秀和さん

――まず、簡単なご経歴を教えてください。
 一橋大学を卒業後、新卒で入社した三和総研(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に、戦略コンサルタントとして勤めました。その後、ビジネスリーダーのキャリア支援の世界に転身し、2008年にコンコードを立ち上げました。キャリア支援の実績が評価され、2010年には、日本No.1のキャリアコンサルタントを決定する「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門の初代MVPを受賞しました。
 また、2017年に東京大学で開講した正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のカリキュラム設計と講義を担当するなど、キャリア教育活動にも取り組んでいます。一橋のキャリアマネジメントの授業にも、外部講師として登壇させていただいたことがあります。

――本学の卒業生として、そしてキャリアコンサルタントとして、就活における本学の学生の弱みは何だとお考えですか。
 大前提として皆さんにお伝えしたいのは、一橋生は企業からの評価が非常に高く、就職活動はとても恵まれているということです。実際、就活生から人気の高い、戦略コンサルや総合商社といった超一流の企業から「一橋出身者をぜひ採用したい」という声が、私たちの会社に多数寄せられています。一橋の現役生の皆さんも、この「プラチナチケット」を手にしているのです。
 〝Captains of Industry〟たる一橋生の中には、「将来、経営幹部となって、より良い社会をつくりたい」という志を持っている方も多いことでしょう。仮に、日本の伝統的な有名企業に就職した場合、順調に行っても、経営幹部になるには30年近くかかります。一方、戦略コンサルや投資銀行、IT・デジタル企業といった業界に就職し、経験を積めば、若くして経営幹部への転身が可能です。現代はこのような経営幹部への「キャリアの高速道路」が至る所に存在するということを、一橋生にはぜひ知ってほしいと思います。
 ただ、東大や早稲田、慶應といった大学に比べて、キャンパスが都心に位置していないことは、一橋生にとって若干不利だとは感じます。なぜなら、主に都心の企業が実施している長期インターンシップへの参加に、一橋生はどうしても及び腰になりがちだからです。

――「長期インターンシップ(以下、長期インターン)」という言葉が出ました。将来のキャリアを考えていくうえで、長期インターンにはどのような意義がありますか。
 長期インターンに参加すると、学生のうちから社会人経験を積むことができます。簡単な資料作成をはじめとする基本的なビジネススキルや、他者と協力して仕事をする際のスタンスなどを学べる、貴重な機会となるのです。
 この経験がその後の社会人生活で大いに活きてきます。身につけたビジネススキルを活かして、入社早々に仕事で成果を出す。上司や顧客から高い評価を受ける。ますます仕事を頑張ろうという気持ちが湧き、さらなる成果を生み出す――このような「良循環」が生まれるのです。
 また、長期インターンを通じて基礎スキルを身につけている学生は、就活で高く評価されます。なぜなら、採用企業にとっては、人材育成の負担を大きく軽減できるからです。社会人とのコミュニケーションに慣れているという点も、面接で有利に働くでしょう。

――アルバイトも、ひとつの社会人経験かと思います。長期インターンとの違いは何でしょうか。
 一番の違いは、身につけたスキルが、将来の仕事に直結するかどうかです。
 一橋生にも、家庭教師や飲食店でのアルバイトをしている方はいますよね。ですが、実際に社会に出てからも数学や英語を教えたり、接客業に従事したりする方はごくわずかではないでしょうか。やはり、パソコンでデータを分析したり、企画を立案したりという仕事に就く卒業生が多いと思います。それを、学生時代に前もって体験できることに、長期インターンの意義があるのです。お金には代えられない価値があります。

――キャリア形成における長期インターンの重要性がよくわかりました。もっと多くの一橋生に、長期インターンに参加してほしいですね。
 ただでさえ中央線は混んでいるし、わざわざ都心へ出ていくことが面倒くさいと感じるのはよくわかります。私もそうでした(笑)。
 しかし、長期インターンでの経験があると、その後の社会人生活が大きく変わります。特にコロナ禍以降、リモート対応の長期インターン募集も増えているので、ぜひ積極的にチャレンジしてほしいですね。

――ほかに、将来のキャリアを考える上でやっておいた方がよいことはありますか。
 私が強くお勧めしたいのは「スロー就活」です。これは、弊社のキャリア教育活動を担う(株)コンコードアカデミーが運営する就活サイト「CareerPod(キャリアポッド)」で提唱している考え方です。就活生になってから慌てて就活を始めるのではなく、大学1・2年生という早い時期から自分の価値観にじっくりと向き合い、情熱を注げる仕事を見つけましょうという、いわば本質的な就活スタイルを意味します。
 中でも学生にお勧めしている作業が「好き・嫌い分析」です。一日の中で「楽しい」「つまらない」と感じたことを、日々書き記していく。これを1~2年間書き溜めると、自分の好きなこと、嫌いなことが明確になってきます。このデータベースが、将来のキャリアを考える上で大事な指針となるのです。実は、私自身も中高生時代に「好き・嫌い分析」を行いました。結果、「人生相談業をやりたい」というキャリアビジョンが生まれ、コンコードの創業に至っています。
 ほとんどの学生は、就活生になった途端、いきなり自己分析をして将来を決めなくてはいけない状況に立たされます。しかし、自己分析は短期間にできるほど簡単ではありません。まだ就活までに余裕のある1・2年生のうちに「好き・嫌い分析」を行い、自分の価値観を把握しておくことが大切です。そうすれば、近年著しい就活の早期化にも焦ることなく対応できるようになるでしょう。

――「CareerPod」のお話が出てきました。どんな特徴を持つ就活サイトなのでしょうか。
 日本には「キャリア設計」を体系的に学べる機会がありません。この状況への問題意識から、私は『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社)を執筆し、東京大学のキャリア設計の教科書にも選定されました。この本をベースにして、「CareerPod」では、ビジネスの知識がない1年生でも理解できるよう、キャリア設計の基礎からわかりやすく解説した記事を掲載しています。また、社会へ出ていくための準備の機会を学生に提供するため、優良な長期インターンの募集情報も掲載しています。
 さらに、戦略コンサルや投資銀行、総合商社といった難関企業から内定を獲得するための選考対策も掲載しています。「自分は面接が苦手だから、BCGや三菱商事のような超人気企業には受からない」と思っている方もいるかもしれませんが、非常にもったいないことです。就活は、対策次第で結果が大きく変わります。まさに大学入試と同様です。筆記試験や面接はもちろん、ケースインタビューも、対策と慣れが鍵を握ります。「CareerPod」に会員登録(無料)をすれば、それらの対策法を基本から知ることができます。ぜひ活用してください。

就活サイト「CareerPod」は、スマートフォンやPCで気軽に利用できる

――一橋生が運営し、コンコードアカデミーもサポートしている「一橋map」についても教えてください。
 「一橋map」はご存じの方も多いと思いますが、サークルやゼミの紹介に加え、一橋生におすすめの長期インターン募集情報も掲載している総合情報サイトですよね。先ほどもお話ししたように、長期インターンの経験はとても大切です。大学入学時に「サークルやアルバイトだけでなく、長期インターンも選択肢の一つに加えてほしい」という想いから、一橋mapに募集情報を提供しています。

――最後に、現在就活中の一橋生や、今後就活を控えている1・2年生に向けて、一言お願いします。
 自分が好きな仕事を選ぶか否かで、人生の充実度は大きく変わります。仮に22歳から65歳まで働くとすると、社会人生活は40年以上続きます。通常、1日の活動時間の半分以上が仕事ですから、人生の大半の時間を仕事に注ぐことになります。長期間取り組むことになる毎日の仕事で、楽しいと思えるのか、やりがいを持てるのかが、人生の充実度を大きく左右するのです。
 さらに、選ぶ仕事によって収入も大きく異なってきます。近年、実力成果主義の企業が増えています。就く仕事によっては、20代であっても、他企業に就職した同期と比べて2~3倍の収入となることも珍しくありません。
 「好きな仕事を通じて、誰かの役に立ち、より良い社会をつくる」――そのような豊かな人生を、一人でも多くの一橋生が歩んでいけることを願っています。一橋生には、理想のキャリアを選択できるチャンスがすでに用意されています。ぜひ、貴重な学生時代の時間を大切に過ごし、しっかりと社会に出る準備をしてほしいですね。

 

渡辺秀和(わたなべ・ひでかず)(コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO)
 一橋大学商学部卒業。株式会社三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門を経て、2008年に(株)コンコードエグゼクティブグループを設立。近年は、(株)コンコードアカデミーの代表取締役会長として、学生へのキャリア教育活動も積極的に行っている。著書に『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)。近著『新版 コンサル業界大研究』(産学社刊)は、東京大学生協本郷書籍部ランキング第1位を獲得。