THE IKKYO SHIMBUN

【Hit→You2017/はたらく】御社で彼女ができました。

「リクラブ」―「リクルート」と「ラブ」を足し合わせた造語で、就職活動中に交際相手ができることを意味するのだという。就活というと、倍率の高い選考を勝ち進むだの数十社にエントリーだのと辛く苦しい場面ばかりが注目されがちだが、世の中にはそんなところを乗り越えて、楽しく恋愛までしちゃう人がいるという事実。マジかー。そっかそっか。そういう感じか。それが現実か。現実は自分が考えている何百倍も強烈だ。俺なんて普通の恋愛さえうまくいかないのにさあ。てか就活って「就職活動」の略語でしょ? どこに恋愛要素入り込む余地があるんだよ。さてはオメー、出会い厨だな。オイ、コラ……。


「別れたのが最近だからちょうど話すのもいいかなって。まあ、クリスマスが辛いんだけどね」
取材で待ち合わせたロージナ茶房のメニューをめくりながら、Aさんはそう言った。Aさんは来年の春からある銀行で働くことが決まっており、リクラブで人生初めての彼女(以下、Bさん)ができた人だ。
出会いは3年生の夏のインターンに遡る。「互いに顔を知ったのはそこが最初。ただ、その時は違うグループだったから、話すとかは特になかったんだよね」。しかし、11月に思いがけない出来事が起こる。夏のインターンに参加した人向けの施設見学会で乗ったバスで、偶然にもBさんと隣合わせたのだ。「『あっ、あの時の』みたいな感じで盛り上がって。彼女が声優や野球が好きで、趣味も合うって分かった」。それからはLINEでちょくちょく連絡を取り合うようになった。Bさんが地方に暮らしているためなかなか会う機会はなかったが、12月にインターンのメンバーで飲み会をするなどして2人は徐々に仲を深めていった。「親しかったけどこのときはまだ『好きだ!』とかそんな感じではなかったから、告白とか全然考えてなかった」

時は経ち4月に。就活がいよいよ本格化すると、Bさんが東京を中心に就活をするということもあり、またインターンのメンバーで飲もうという話になった。飲み会の席でBさんは「あーん」をしてくれた。Bさんのかわいらしい仕草にAさんは舞い上がって、コロッと落ちてしまう。「酔ってたからあんまり覚えてないけど、かわいい!かわいい!かわいい!ってなっちゃったんだよね(笑)。久々に会ったわりに、すごく楽しく喋れた」そしてなんとその数日後には、Bさんからサシで飲もうというお誘いが! 再び2人で楽しく飲んだAさんは、「なんか好きになっちゃって、言うべきかもって思った」という。それからはお互いの志望業界がかぶっていたことで同じ会社を志望する機会も増え、就活を口実に1週間に1回のペースで会っていた。

そして5月、今度はAさんから誘って2人でデートに出かけた。御茶ノ水、秋葉原で遊んだあと、浅草周辺を散歩。このとき、Aさんの頭の中では既に覚悟が決まっていた。「もともとその日に告白するつもりはなかったんだけど、頭の中で『今日言わないと!』みたいな感じになっちゃって(笑)」

夜になってから、スカイツリーに登った。きらきらとした東京の夜景。周囲はこんなにも賑やかなのに、耳には何も聞こえてこない。緊張で心臓は痛いぐらい跳ねている。

震えを抑えながら、呟く。「好きです。付き合ってください」
数秒の沈黙の後、Bさんはよろしくと笑ってくれた。

それからは就活を二人三脚で乗り越えた。遠距離で会う時間も限られていたが、忙しい中でお互いに会う時間を作る努力を続けた。同じ企業の選考でどちらかが先にお祈りメールを受け取っても、「大丈夫だから」「運もあるから」と慰めあい、お互いを元気づけた。そして6月上旬、同じタイミングで2人は無事就活を終えた。Aさんは、就活が2人をつなぎとめていた部分もあったと語る。「とっかかりが就活で共通目標があるうちは関係性も続きやすいけど、一度ゴールしたらその後は普通の恋愛と何も変わらないから。俺の場合はそこがうまくいかなかったかなあ」。遅かれ早かれ就活には終わりが来る。就活を取っ払った先に進めるか否かが、リクラブカップルにとっては重要なのだろう。


リクルートワークス研究所の調査によれば、今年(2017年)3月卒業予定の大学生の中で就職希望者数(就活をしている学生の数)は約42万人だという。42万人の中から、AさんとBさんは偶然にも出会ったのだ。インターンの「はじめまして」からスタートした、運命的なボーイ・ミーツ・ガール。この「偶然性」の神秘に、俺は頭がくらくらしてしまった。他人のリクラブを「ワンチャン」や「出会い厨」といった言葉で揶揄するのは容易いが、でもそれもお互い好きになったからには仕方がない。そして、この偶然はあなたの身にも起こり得る。これは舞台こそ就活という特殊な場ではあったが、「果てしない話」でもなんでもない。限りなく素朴で、普遍的な恋愛だったのだ。