【Hit→You2017/はたらく】好き「も」仕事にする

一橋大学卒業後一般企業に就職。自身のブログをきっかけに、現在は音楽ライターとしても活躍するレジーさんに話を聞いた。


□まず、現在に至るまでの経緯を聞かせてください。在学中からライターを目指されていたんですか。

■実はライターになりたいと思ったことはないんです。ただ、文章を書くこと自体は昔からすごく好きでした。学生時代はまだSNSもなかったので、部室に置いてあるノートにいろいろ書いたりしていましたね。あと当時から「情報をどう伝えると人が動くか」みたいな話に興味があって、増田書店の地下に売っているそういう類の学術書、たとえば外国のプロパガンダに関する本とかをよく読んでいました。

□就職活動はどうでしたか。

■僕は商学部にいたんですが、いわゆるマーケティング、どういう仕組みでものを売ってヒットさせるのかということに関心がありました。そういうことに関わる仕事がしたいなと思っていたので、就活ではBtoCのメーカーや広告代理店を受けました。入社したのは食品メーカーで、そこで商品開発や広告に携わる部署に配属されました。レコード会社や音楽雑誌の出版社も受けていて、一部いいところまでいった会社もありましたけど、「記念受験」って感じでしたね(笑)。

□ブログを始めたきっかけは何ですか。

■2006年ごろからmixiで音楽に関する文章をよく書いていて、2009年ごろからはツイッターに移ってそういうことをやっていたんですが、そのうち140字でぶつ切りになるのが煩わしくなってきたんですよね。それで、どうせ書くならと思って2012年の夏にブログを始めました。もちろん「それを職業に」みたいな意識はなくて、単なる趣味としてです。その翌年の春ごろに、QUICK JAPANという雑誌から「ブログ読みました、記事を書いてみませんか」とお話をいただきました。そこから芋づる式に色々な機会をいただいて、今に至ります。

 

□趣味の音楽ブログというと、思い出語りかディスクレビュー、あるいはプレイリストをつくって曲紹介、というものが多いと思うのですが、レジーさんのブログはミュージシャンへのインタビュー記事も豊富ですよね。インタビュー記事を始められたきっかけは何ですか。

■もともと「自分の好きなものを応援したい」という思いがあったんですが、その目的を果たすなら自分の言葉を重ねるよりも本人の話を聞いて伝える方がいいんじゃないかなとふと思ったんですよね。最初のインタビュー記事は2013年のパスピエのものです。

□最近は特にインタビュー記事が増えていますね。

■「いろいろな人の話を聞けて面白い」という素朴なモチベーションでちょっとずつインタビュー記事を増やしてきました。最近は外部媒体で論考っぽいものを書かせていただいているので、ブログではインタビューや企画ものを中心にしている、というポートフォリオ的な意味合いもあります。

□パスピエのインタビューはQUICK JAPANに載る前ですか。

■そうですね、直前です。

□その頃はまだ本当に「一般人ブロガー」だったわけですよね。ミュージシャンに取材を申し込むのは勇気がいったんじゃないでしょうか。

■うーん、確かに勇気はいることだったんですが……今振り返ると、実現できた理由はおそらく2つあります。ひとつは、先行例が身近にあったからです。当時の同僚に会社員をやりながらライターもやっている人がいたので、何をすればいいかイメージしやすかったというのがあります。もうひとつは、インタビューを申し込む少し前に自分のブログが結構話題になっていたので、これなら意外と話を聞いてもらえるんじゃないかという目論見がありました。僕のブログのアクセス数はインターネット全体で見れば大したことないサイズだと思いますが、その当時はミュージシャンや有名ライターの方などの「質のいい人」が徐々に見始めてくれている実感があったんですよねありました。パスピエへの依頼メールには「この記事とこの記事がバズってこの記事は誰が反応して~」ということを書いて「怪しい人じゃないですよ、あなたにもメリットがありますよ」ということが伝わるようにお願いしました。

□「質がいい人」が見てくれるのはなぜだと思いますか?

■後付けではありますが、多くの人が話題にしたかったことをうまくキャッチできていたのかなとは思います。最初にバズったのがフェスについての分析記事で、「お客さんの質が変わって、音楽のためではなく花火大会のようなレジャーとして参加している人が増えている」という内容でした。あの時点ではわりと目新しい着眼点だったと思うのですが、そういうことを感じている人が実は多かったのかなと。あとは「ロック好きな人ってだいたいアイドルけなすよね。アイドルダサいって思っている人こそダサいんじゃないの?」みたいな記事もバズりました。アイドルとロックの関係みたいな話はその頃すごくタイムリーだったんですよね。みんながうっすら考えていたこと、もしくは逆に言われるといやなことを自然と書いていたのかなと。

□確かにそういう特定の層を遠回しにディスってるような記事は、有名なライターの方は書きづらいかもしれませんね。

■そうかもしれないですね。当時は音楽業界と何のかかわりもなかったのでこわいものはありませんでした!(笑)

 

□今は気になるとすぐスマホでぱっと音源聴けちゃいますよね。おすすめする、という面での音楽批評の役割は薄れていっていませんか。

■確かに「言葉で説明するよりもYouTubeのURLを貼った方がいいのでは」と思うときはあります。単に情報を提供するだけならそれで済んでしまうので、「単なる紹介以上の意味を持つ読みものになっているか」というのは自分なりには意識しているところです。
……そもそも音楽批評って誰が読むんですかね?

□結局何かしら批評したい気持ちのある人が読むんじゃないでしょうか。

■そういう感じはしますよね。ただ、本当にそうなんだとすると、「そんな内輪向けの文化って必要かな?」とか思ってしまったりもするんですよ。だから、僕としてはそういうものに関心のない層が読んでも面白いと思ってもらえるものが書きたいです。批評とかに馴染みのない人が自分の文章を読んで「あ、こういう音楽の楽しみ方ってあるんだな」と気づいてもらえたりするととても嬉しいですね。

 

□今、音楽ライターの方は「おしごと」ですか?

■そうですね……良くも悪くも仕事になったようには感じています。最近はいくつかの媒体で定期的に記事を書いていますし、とても楽しい反面「もう逃げられないな」と思うときもあります。

□収入的にはどうですか。

■それ目当てでやっている話では必ずしもないので、今のところは「会社の仕事があってこその……」という感じです。

□副業を持って大変なことはありますか。

■やっぱりタイムマネジメントが一番大変ですね。会社の仕事の山と記事の締め切りが重なったりすると結構しんどいです。あとは強いて言えば、嫌いなアーティストの悪口を言いづらくなったことでしょうか。あまり萎縮しても楽しくないのですが、ちょっとだけ自制心が求められるようになりましたね(笑)。

□二つの仕事の間に何かリンクするものはありますか。

■会社ではマーケティングや事業戦略に関する仕事をずっとやってきているので、音楽産業全体をそういう観点で考えられるのは強みだと思っています。ただ、そういう側面を出しすぎると嫌悪感を示す方も多いので、そのあたりのバランスには気を遣っているところです。ライター側の仕事からの還元があるとすると、会社の採用面接ですかね。アーティストへのインタビュー経験が生きています。たまに相手の化けの皮を剥がすような質問ができるとすごく気持ちよいです(笑)。

□ライターの方を本業にしたいとは思われないんですか。

■それは全く思っていないですね。食い扶持としての仕事があってそこでちゃんと評価してもらって、それを土台に「音楽を聴いて文章を書く」という好きなことを続けて、しかもその文章を読んでくれる人とお金をくれる人がいる。で、家族との時間もちゃんとしっかり持つ。この全部のバランスをこれからも何とか維持したいです。

□今までのレジーさんのお話だとラッキーで趣味が副業になりました、という印象を受けるのですが……(笑)。

■そうですね、ラッキー以外の何物でもないです(笑)。自分の思ったことを発信し続けた結果として今の状況があるって感じですね。大した計画もなくここまできているので、いずれいろいろな事情でそれぞれの活動をうまく回せなくなる場面もくるのかもしれないなとは想像しています。ただまあそれはそれで仕方ないと思いますし、その都度優先順位をつけてやっていくだけですね。自分の周りを見ると、同じ世代の人で会社の仕事以外に何かしらの生きがいみたいなものを持っている人って結構少ないんだなあと感じます。僕がいたサークルでも、卒業後は音楽と何の縁もなくなる人も多いです。でも、社会人になったら趣味をやめないといけないなんてことはないし、好きなものはいくつあったっていいんですよね。多少のパッションや行動力が必要なのは間違いないので難しいかもしれませんが、働きながらでも自分の好きなことややりたいことをコツコツ続けるのが当たり前の世の中になればいいなあと常々思っています。


レジーレジー

会社員・音楽ライター
1981年うまれ。04年商学部卒。
アカペラサークルThe First Cry3代目代表をつとめた。
2012年7月、音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。
2013年春、QUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿。
以降は外部媒体での発信も行っている。
レジーのブログ : http://blog.livedoor.jp/regista13/
Twitter : @regista13