日に日に暑さが厳しくなり、いよいよ夏本番である。学生の皆さんは、これから始まる夏休みに心を弾ませていることだろう。海水浴、避暑地でゆっくり、クーラーの効いた図書館で猛勉強など、夏の楽しみ方は人それぞれだ。ところで夏の楽しみといえば、祭りを思い浮かべる人も多いだろう。隅田川花火大会をはじめ東京都内にも有名な祭りはたくさんあるが、せっかくの長い休みを活用し、遠出して地方の祭りを楽しむという人も多いと思われる。そこで本特集では、地方や海外出身の部員3名が、地元民だからこそ知るイチオシの祭り・イベントを紹介する。全国規模でみるとまだまだ知られていないものも多いかもしれないが、どれも魅力に満ちあふれている。これらの「名祭」を訪ねれば、今年の夏の思い出に一段と深みが出るに違いない。
〈秋田〉能代役七夕・天空の不夜城
秋田県北西部、能代市を代表する夏祭り「能代役七夕」が8月6、7日の2日間にわたり行われる。城の天守閣の形状を模した高さ約7~8メートルの大型灯籠が市内を巡行するほか、2日目の夜には、灯籠上部に飾られた「シャチ」が、市内を流れる米代川に運ばれて火を放たれ、炎を上げながら暗闇の中を流れていく幻想的なクライマックスを迎える。記録に残るだけでも300年以上の歴史を持ち、夏の眠気や疫病を払い、五穀豊穣を祈る祭りとされる。
また、この祭りから派生して2013年にスタートした観光イベント「天空の不夜城」は、これに先立つ8月2、3日の2日間行われ、明治期に役七夕で運行されていた高さ約20メートルの超大型灯籠を再現した「嘉六」と「愛季」の2基の灯籠が市内を練り歩く。
地域ぐるみで愛され、受け継がれてきた能代役七夕。幼稚園の頃から祭りに触れ、現在は太鼓の打ち手として参加している専門学校生、後藤翔太さん。後藤さんにとってこの祭りは、身近にありながらもどこか特別な感じがする「日常の中の非日常」だという。後藤さんは「賑やかな雰囲気の中、初対面の人とも一緒に祭りを楽しむことができるのは魅力」と述べ、いつまでも祭りを大切にしたいと語った。
〈愛知〉尾張津島天王祭
名古屋駅から電車で30分ほどの愛知県津島市にある天王川公園では、毎年7月第4土曜日から2日間、尾張津島天王祭が開催される。600有余年の歴史を持つ天王祭は、荘厳・華麗な川祭りであり、「日本三大川祭り」の一つである。また、かの織田信長も見物したと言われており、国の無形民俗文化財に指定されている。
天王祭は天王川公園の近くにある津島神社の祭礼であるが、その津島神社も織田信長が造営に協力し、豊臣秀吉が楼門を寄進するなど、その歴史はとても長い。
天王祭には宵祭と朝祭があるが、ここでは宵祭について詳しく取り上げる。宵祭では2隻の船をつないで1艘とする、5艘の巻藁船がそれぞれ約400個の提灯を付けて天王川に漕ぎ出される。夜の天王川に浮かぶ巻藁船の提灯が、暗い水面を照らしながらゆっくりと漕がれていく様子は、とても幻想的である。様々な屋台が立ち並び、浴衣を着た人々が多く行きかう。
近年の歴史ある祭りは、人材、物品、運営費などの不足で存続の危機に瀕している。まずは祭りについて多くの人に知ってもらうことが大切である。
今年の天王祭は7月26、27日に開催される。ぜひ、訪れてみてほしい。
〈台湾〉旧暦七夕・情人節
台湾では、旧暦7月7日(今年は8月29日)の七夕は「情人節(恋人の日)」として広く祝われている。織姫と彦星が年に一度、天の川を越えて再会を果たすという伝説に由来するのは日本と共通しているが、短冊に願い事を書いてササに飾る日本とは異なり、台湾では、恋人たちがプレゼントを贈り合い、レストランで食事を楽しむことが恒例となっている。
現代の台湾では、七夕はロマンチックな日とされる一方で、七夕はもともと「乞巧節」あるいは「女兒節」と呼ばれ、伝統的には、女性の美しさや手芸の上達、さらに子どもの成長を祈る日でもあった。
台湾南部では、織姫の化身とされる神様「七娘媽」を信仰する習慣が今も残っている。七娘媽は女性と子どもを守る存在として親しまれており、七夕の日に麻油鶏や油飯など、産後の女性が食べる料理を供えて祈る「拜七娘媽」や、子どもが無事に16歳を迎えたことを感謝する「做十六歲」といった風習は、今なお受け継がれている。
(この記事は、国立伝統芸術センターのウェブサイトを参考に作成しました)